人生、それはわからん

最後から二番目の虚妄

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ファンタジー世界に普通の学生が転移して魔族と戦ったりする話

  1. 2013.04.05(金) _12:41:58
  2. メイジももんじゃ
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【模索/イメージスケッチ】



 閉じた瞼の隙間から溢れ出さんばかりの光に、思わず両手で顔を覆った。

 ――追憶はいつも、この非現実的な光景から始まる。

 光が止んだ事を悟り、恐る恐る手を下ろせば、まるで手品師が腕の一振りでコインを消してしまうように、今まで眼前に広がっていた日常は消え失せていたのだ。
 しかし、消えてしまったものをドヤ顔で胸ポケットから取り出してくれる手品師は、ここには居ない。
 ここに立っている俺は紛れもなく、何の変哲もないただの高校一年生であり――俺の常識感覚が本当に正しいのならば、この広大な草原は、帰宅途中の高校生がフツーに立っているべき場所ではない。
 だってなんか、空にドラゴンとか飛んでるもん。
 もしこれが悪質なドッキリか何かだとするのなら、他人を瞬間移動させる技術の完成という大ニュースを見事に見逃していたことになる。
 そうでないなら、何だろう。天罰の類だろうか。先日、家で飼っている犬にマジックで眉毛を描いたのが、犬の神か何かの逆鱗に触れたのかもしれない。犬に鱗は無いけど。
 にしても、何の説明も無しとは昨今珍しい程に不親切なことだ。フィールドに放り出すんなら、チュートリアルくらい置いておいて欲しいものである。“星をみるひと”じゃないんだから。

 ……なんて、現実逃避に近い思考は、そろそろ打ち切るべきなのだろう。
 とは言え、調べられそうなものが草くらいしかない現地点では、途方に暮れる以外にできる事もない。かと言って、この得体の知れない世界を一人で歩き回るのは無謀と言う他ないだろう。
 答えを決めあぐねているうちに、背後から響いた声が一つ。

「お兄さん、誰?」

 喫驚して振り返れば、丸い瞳をまっすぐこちらに向けて、小柄な少女が立っていた。
 ――ここに来てからの反省点は数あれど、記念すべき最初の失敗はこれだった。曰く、“知らない人についていってはいけません”。各家庭のお子さんには、よく言い聞かせておいて欲しい。

 どういうわけか流暢な日本語を話す彼女に案内されて、付近にあった村に到着した俺は、親切な村長さんの家に少しだけ厄介になることにした。
 そこで、この世界における様々な事情を知ったわけだが――“魔王”によって統率された“魔族”の軍勢が、人間たちを脅かしていると言う、今や化石を通り越して石油になっていそうな典型的な設定は、お約束というか何というか、知って数日もしないうちに俺に――と言うか、よりによって俺のいる村に牙を剥いたのだった。

 多分、舞い上がっていたんだろう。退屈な日常を切り裂いて現れた非日常と言うものに。
 まるで物語の主人公にでもなったつもりで、勢いのままに、死んだ村人の剣を取った。

 ――記念すべき最後の失敗は、これだ。曰く、“もうちょっと冷静になれよ”。たった数日世話になっただけの人が殺されただけで、簡単に激昂してしまうなんて、なんと愚かしいことだろう。
 “これ”を見られるのは人生でたった一回しかない機会だというのに、後悔やら反省やら、そんな事ばかりが浮かんでは消えていく。

 ワンパターンで味気ない走馬灯が終わる頃、顔を覆っていた両手は力なく地面に落ちた。
 照り返す刃の光は変わりなく眩しいが、いくら力を込めようとしても、その腕はもう動かない。
 その躰は、もう二度と動かない。


 *


「あれー、またダメだ。おっかしーなァ」

 ごちゃごちゃと、お菓子の空き袋やらチューハイの空き缶やらが散らかった部屋で、女は呑気な声を上げた。
 その後ろで、燃えるゴミの袋を縛っている男は、この部屋には到底不似合いな、執事風の格好をしている。

「やっぱやり方が悪いのと違いますかね。落とす場所変えてみたらどうです?」
「んんー、最初のうちは色々変えてたんだけどー」
「もうなんかリセットマラソンみたいになってきましたもんね」
「確率の問題じゃないのかなぁ」

 不満気に口を尖らせて、猫背の女はキーボードを叩く。モニターに表示されていた“1058人目”とラベリングされた実験記録の末尾に、“失敗”の二文字が追加された。

「あとは、やっぱりこの方法自体が向いてないとか」
「うーん、地球人の、特に子供を引っ張りこむと大抵の問題が解決したって話がいろんな本に書いてあったから、信頼できると思ったんだけど」
「いや、だから最初に僕が言ったとおり、全部フィクションなんじゃないですかそれ」
「私もそんな気がしてきた」

 冗談めかして言いながら、女はキーボードを叩き続ける。
 モニター上に新しく展開されたファイルの冒頭に、小さなゴシック体で“1059人目”と書き込まれた。


 *


 地球上の各地において発生した“十代の少年・少女たちが同時多発的に行方不明になる”という一大事件は、全国を震撼させた。
 「目の前で煙のように掻き消えた」なんて証言までもが出てきてしまったのだから、尚の事だ。
 何らかのトリックを使った大規模な組織による犯行か、単独犯による事件が相次いでいるだけなのか、はたまた人知の及ばない現象が実際に起きているのか、真実は全くもって不明。
 ゴシップ誌の中には“現代の神隠しか!?”などと楽しげに煽るものもあり、社会不安は増大の一途を辿った。
 また、事態が長く続くと、便乗犯の出現も多く取り沙汰されるようになった。今なら神隠しのせいにできる、こうも対象が多ければ捜査の手は自分まで伸びないと思った――捕まった犯人自身がそう陳述する、無関係な児童誘拐事件もまた、爆発的に増加した。
 民衆の不安は、治安悪化を招く。国民の負の感情は高まりつつあった。

 そんな折、であった。
 とある物理学者が、誘拐現場と推測される座標から、特殊な放射波形の残滓を観測したと発表したのは。

 それから、延々と続く難解な説明を理解できなかった一人の新聞記者は、彼の話を打ち切って、空気の読めない質問をぶつけた。(そうしなかった周りの記者たちも、内心「よくやった」と思っていたに違いない)

「この発見は――」

 学者は、いかにも不機嫌な心境を声に表しながら、出来の悪い弟子にそうしてきたように、呆けた顔の記者達を一瞥する。
 そして彼は、散々続けた説明を、改めて一行に要約した。

「干渉可能な異世界の存在を予言するものである」

 民衆の不安が向けられるべき矛先は、今、示された。
 世界間戦争の引き金に掛けられた指は、もう、外れることはない。




(たぶんつづかない)








よくある異世界転移モノファンタジーを書こうとしたら案の定途中でSFになったでござるの巻




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